荒川ゆうネットアーカイブ
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トップページ > 特集 > 荒川区の著名人「江戸里神楽土師流四代目家元 松本源之助」
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松本 源之助(まつもと げんのすけ)さんプロフィール


【経歴】
大正13(1924)年、荒川区西日暮里生まれ。江戸里神楽土師(はじ)流四代目家元。7歳より三代目・父について江戸里神楽を学ぶ。第二次世界大戦終結後、アメリカ軍のアーニーパィル劇団に入り日本の神楽を紹介。またお神楽学校を組織し後継者育成に努める。現代音楽や演劇を取り入れた創作神楽を次々発表し、昭和51(1976)、58(1983)年芸術祭優秀賞受賞、昭和59(1984)年芸術祭大衆芸能部門大賞受賞、平成2(1990)年芸術選奨文部大臣賞受賞、平成15(2003)年の勲四等瑞宝章受章など数々の受賞歴がある。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各地において公演活動を行い、アジア舞踊フェスティバルにも参加。 財団法人日本太鼓連盟評議員、東京都太鼓連合会長、社団法人全日本郷土芸能協会常任理事、民俗芸能研究会会長。

【受賞歴】
昭和 39(1964)年 東京都の文化財に指定される
昭和49(1974)年 国の文化財に指定される
昭和51(1976)年 文化庁芸術祭優秀賞受賞
昭和58(1983)年 荒川区の文化財に指定される
同年 文化庁芸術祭優秀賞受賞
昭和59(1984)年 文化庁芸術祭大衆芸能部門大賞受賞
昭和61(1986)年 日本コロムビア株式会社ゴールデン・ディスク特別賞受賞
平成2(1990)年 芸術選奨文部大臣賞受賞
平成7(1995)年 国の重要無形民俗文化財に指定される
平成15(2003)年 勲四等瑞宝章受章

インタヴューア 三浦元子

質問:荒川区との関わり、地域での想い出をお話し下さい。
インタビュー風景
日暮里の神楽「土師流(はじりゅう)」
  私は生まれも育ちも西日暮里です。
 土師流初代家元の曾祖父から4代の永きに渡り、この地に居を定めています。また私ども「土師流」のことを神楽師の仲間内では「日暮里式」と呼んでいます。
 おかげ様で、地元の諏方(すわ)神社では奉納神楽(氏子の依頼により祈願をこめて舞う神楽)を務めさせて戴いています。

日暮里の人情と習慣
 街の様子はこの80年近い間に大きく変化しましたが、昔ながらの人情は今も脈々と息づいていると思います。古くから「朝茶は縁起がいい」という風習がありますが、近所を歩いていると今でもお茶を勧めてくれます。また私自身も、食べ物を頂戴したら始めにお仏壇にお供えしますし、我が家の屋上にあるお稲荷様には毎朝欠かさずお参りしています。このような習慣は、この界隈では未だに続いています。

昔は窓も人も開放的だった
 私が幼少の頃は平屋建ての長屋が建ち並び、夏にはどの家も戸や窓を開け放ち、人々も開放的でした。
 戦後、焼け野原に変貌した街に鉄筋コンクリートのビルが建ち並びましたが、その窓は常に固く閉ざされています。人情が生き続けている街とはいえ、そのような環境においては、昔の方が人と人との距離が今よりも近かったように思います。
 建物といえば今はありませんが、遠くに見えた千住の「おばけ煙突」が懐かしく思い出されることがあります。

質問:江戸里神楽土師流についてお教え下さい。
インタビュー風景
神楽は祭りと共に
 日本の歴史と歩んできた祭りと共に、民俗芸能である神楽は、各地方によって独自の流派が生まれました。起源を出雲(島根県)に持つ神楽ですが、鷲宮(埼玉県)を経て江戸に入り、江戸時代中期(1730年頃)には現在の江戸里神楽の形になりました。神楽の内容は神話や神社の縁起にまつわるものが主でしたが、江戸において「おかめ」「ひょっとこ」に代表される茶番風の滑稽なものが好まれました。
 祭りの度に庶民の娯楽として演じられてきましたが、近年では祭り自体が少なくなり演じる機会が減少してきました。また神輿を担ぐにも警察署への届け出が必要等の法的規制もあり、祭りが衰退する一因ではないかと危惧しています。
 江戸時代から山車や屋台の上で演奏されていた江戸里神楽を、慶事の獅子舞や祭囃子の演奏のみでも手掛けるなど、様々なかたちで皆さんに知っていただけるよう努めています。

「日暮里式」は愉快な神楽
 土師流は「面白く愉快に演じる」ことを特徴にしています。土師流の神楽が他流派と大きく異なる点は「面白い」ということです。神楽師が「日暮里式」と言うときは土師流を指します。
 神楽は黙劇が基本ですが、土師流では漫才のような掛け合い(会話)がある演目もあります。また、神楽には「おかめ」と「ひょっとこ」の面をそれぞれ顔と後頭部につけて1人2役をこなす「両面踊り」がありますが、その中でも土師流では両面「ひょっとこ」をつけ、前後ともに同じ動作をし、笑いを誘います。その他にも、「釣り女」などの女心・男心を描写した創作神楽を上演しています。

質問:これまでの主な活動についてお教え下さい。
インタビュー風景
外国人の目に鍛えられた
 四代目源之助を戦後すぐに襲名して以来、神楽一筋に打ち込んで参りました。終戦当時はアメリカ軍キャンプを慰問する「アーニーパィル劇団(現・東京宝塚劇場)」に入団し、日本語を知らないアメリカ人の前で芸を披露しました。また、フランスの老舗一流キャバレー・ムーランルージュに1年間出演したこともあります。神楽には基本的に台詞がなく、身振りのみで物語を進行するという点が同じようにパントマイムがある海外では受け入れられ易いのかもしれません。しかし実際演じてみると、日本よりも大仰に立ち振る舞わなければ筋を理解してもらえませんでした。これらの経験により、神楽における仕草(マイム)の重要性を認識し、その鍛錬にも繋がりました。その経験のおかげで、現在までに数多くの海外公演を続けてくることができました。

お神楽学校
 昭和23年から主宰している「お神楽学校」は、歴史ある神楽を後世に残すことを目的に、踊り、太鼓、笛等を教えています。「踊りだけ習いたい」という人もいますが、踊りと太鼓と笛は神楽においては切っても切れない関係にありますし、それぞれの間が合わないと舞台が成り立たないので、私の弟子には全てを教えることにしています。
 また芸と同時に、挨拶にしても言葉のみならず心を伴わせることが大切だと考えています。
 弟子は、老若男女、役者や外国人など、様々な方がいらっしゃいます。終戦時にはGHQ(連合国最高司令官総司令部)の女性将校がジープを乗り付け弟子入りに来ましたが、鼻があまりにも高いために面がつけられず、整形手術で鼻を低くしてしまった、という珍事件もありました。小沢昭一氏、加藤登紀子氏、故大地喜和子氏など個性豊かで多彩な方々が、お神楽学校に席をおかれました。

松本源之助の会
 今年(平成16年)10月、日暮里サニーホールにて「第34回松本源之助の会」を上演する予定で、それに向けて新作の神楽を構想中です。この舞台では伝統的な神楽以外にも、新しい試みを意欲的に取り入れてきました。パントマイムと里神楽の共演、太鼓とエレキギター・シンセサイザー等のコラボレーション、バリ・中国・日本の獅子舞共演や、舞台で楽屋裏の様子を回り舞台という大仕掛けでお見せしたこともあります。近年では祭りが減少傾向にあり、神社で演じることよりも、舞台が多くなってきました。祭りが少なくなるのは非常に残念ですが、舞台では照明や音響を駆使した独特の演出が可能なので、やりがいのある仕事だと自負しています。今の目標は、ジャズのフルバンドとお囃子の共演という舞台を作ることと、様々な国の民族芸能と交流しながら世界中を旅することです。

質問:お仕事や生活の上での信条などをお教え下さい。
インタビュー風景
全ての芸術は神楽に通ず
 自分の仕事を一所懸命に努めることが私の信条です。
 昔から神楽の仕草や間の取り方は手取り足取り教えてもらうのではなく、目で見て憶える(芸を盗む)ものでしたから、様々な舞台を研究することは大変有意義なことです。
 舞台装置や衣装の豪華さでお客様を驚かせるのではなく、日々努力し演じる人間の技術によって感動させることができなくては意味がありません。
 神楽師といえども日本の伝統芸能だけに留まらず、ジャズやバレエなどあらゆる芸術に触れ、造詣を深めることが必要だと考えています。

ジャズピアノ+お囃子太鼓=サンバ?
 以前NHK(日本放送協会)で、ジャズピアニストのオスカー・ピーターソンと共演し、ピアノと太鼓の即興演奏をしたことがあります。お互い言葉が通じずにどうなることかと思いましたが、いざ蓋を開けてみると、神楽で間の取り方が鍛えられていたおかげでしょうか、まるでサンバのような絶妙な演奏で大好評を頂きました。日頃から様々な音楽を聴いていたことも幸いしたのだと思います。

質問:最後に、今後のご希望などについて一言お願いします。
インタビュー風景
子供たちに楽しんでもらいたい
 荒川区の子供たちに「荒川区の芸」である江戸里神楽に親しんで頂くために、区内の学校の先生方に観て頂きたいと思っています。時折、小・中学生が校外学習で舞台を観に来てくれますが、大半の子供はすぐに飽きて騒ぎ出してしまいます。興味のない児童に強制的に観せるのは逆効果だと思います。先生方がその魅力を理解してくださらないと民俗芸能の素晴らしさを子供たちに教えることはできません。神楽の題材が日本古代の神話ということもあり、宗教と関連づけて解釈されてしまうこともありますが、そのような誤解を解き、より普遍的な民俗文化として正しく捉え、楽しんで頂きたいと考えています。

小さな訪問者からの手紙
 先日、授業の一環として東京都昭島市から10人の小学生がお神楽学校に見学に来ました。準備をするところから踊りまでを目の前で披露したところ、非常に興味を持って楽しんで頂き、後に感謝の手紙が届きました。彼等の気持ちが詰まった手紙は、私にとって何よりのプレゼントでした。今後もこのような機会が増え、子供たちが心から神楽を楽しんでくれることを願っております。


   
問い合わせ先 荒川区管理部情報システム課
電話:03-3802-3111(内線 2151)

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