魔法探偵 著者:南條竹則 発行:集英社
主人公の「吾輩」は猫ではなく猫探偵で詩人。住まい兼事務所は、荒川区南千住十丁目で三ノ輪の交差点から北に進んで千住間道を越え、裏道を入った所にある「渦巻荘」というアパート。吾輩に持ち込まれる案件は珍事ばかりで、これぞフィクション!なのですが「女神インキ」「川萬」「砂場」など区民にとっては馴染み深い名が次々と現れ、ノンフィクションに思えてきます。
七面坂心中 著者:水沫流人 発行:メディアファクトリー
第1回「幽」怪談文学賞長編部門の優秀賞の本作。身の毛もよだつ怪談世界というよりは、現実と異界の境が平坦に描かれている所が魅力です。 行間に流れる都会の閉塞感や、下町の安堵感、その中を生きる主人公の一途さにも共感できるのでは。 七面坂は日暮里にある坂の名前です。
銀貨 著者:木曾秋一 発行:三一書房
著者の木曾氏は1924年荒川区生まれ。長く荒川区役所に在籍していたこともあり、文中には土地勘の利いた荒川区内の描写が数多く見られます。 本書に収められた七篇の短編は、身内をモデルにしたものがほとんどで、身近に生活した者でしか感じ取れない人生の機微やせつなさ、おかしさや哀愁が漂っています。
都市周縁の考現学 著者:八木橋伸浩 発行:言叢社
ついこの間まで、当たり前に在った風景が再開発で取り壊されていく日々。そこに纏わる文化や風俗も一緒に消失し、人々の記憶を経て忘れ去られます。 日本民族学、日本文化史を専攻する著者は、荒川区をフィールドに、変容する町や生活文化を記録。南千住の栗友亭、西尾久の尾久三業、開発前の汐入地区など、貴重な写真と共に綴られています。
下町の迷宮、昭和の幻 著者:倉阪鬼一郎 発行:実業之日本社 重版予定無し
収められた10篇の短編は、いずれも暗く幻想的で寂寥感を感じさせます。区内では日常的に目にする路地や酒場、墓地や神社、都電や貨物列車などが、ある物語性をもって著者の創作意欲をかきたてるのかもしれません。 荒川区には「下町の迷宮、昭和の幻」のタイトル通りの側面があると気づかされます。