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諏方神社祭の連合御輿渡御 |
日暮里は、古くからお囃子や盆太鼓が非常に盛んだった土地といわれています。しかし、時代の移ろいと共にそうした伝統は次第に失われていきました。貴重な文化をこのまま風化させてしまうのではなく、後世に伝えるために次の世代の担い手を育てていこう――と思い立ち、地元日暮里中央町会の温かな支援と協力を得て1980年に「鞆絵太鼓会」を創設しました。
最初に演奏を披露したのは、昭和55年で毎年8月に盛大に行われる「諏方神社」の大祭でした。
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諏方祭りでは華やかな 山車で巡行 |
祭の夜には日暮里駅前で賑やかな盆踊り大会が開催されます。この祭礼でお囃子、組太鼓。盆太鼓を叩いたのが、活動の第一歩であり「鞆絵太鼓会」の記念すべきデビューの瞬間でした。四半世紀以上経った今でも、この盆太鼓や神輿のお囃子には必ず参加しています。
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諏方神社の神楽殿での奉納お囃子 |
「鞆絵(ともえ)太鼓会」の名前について良く聞かれますが、会の名付け親は創設
者(私と他2名)です。鞆とは本来、弓を射る時に左手の肘に巻く革具の事で、その
形状をアレンジした文様を「“鞆”の絵」と呼び、水が渦巻く様子に似ています。こ
れが、いつの時代からか同じ音である「巴(ともえ)」に置き換わり、文様も巴紋
(ともえもん)と呼ばれるようになりました。太鼓の胴に良く描かれている文様です
ね。私たちは本来の語源で日本の国字でもある「“鞆”の絵」にこだわり「鞆絵太鼓
会」と名付けた次第です。

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子供の部の練習風景 |
毎年7月〜8月に小学2年生以上の男女を対象に募集をかけ、練習に体験的に参加してもらい、そこで「ぜひ続けてやってみたい」と思った人に入会していただいています。和太鼓を叩くことを「おもしろい」と感じ、自分から積極的に参加するのでなければ長続きはしませんからね。
発足した当初はわずか5〜6名でしたが、今では会員が約40名に増えています。子供の部は、小学生が約16名に中学生が2名の計18名、大人の部は15歳〜29歳が11名に、30歳以上が3名の計14名で、ほとんどが荒川区在住者です。男女比で見ると、大人の部は半々ですが、子供の部は女の子が比較的多いですね。

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先輩が後輩を手取足取り指導 |
参加者全員がプロ志向というわけではありませんが、本格的な練習の中でプロに転向するメンバーもいます。「鞆絵太鼓会」の創設メンバーであり、私の息子でもある鈴木正彦は「鞆絵太鼓会」の指導者として門下生を育てながら「七星」というプロの和太鼓集団を旗揚げしました。2004年夏に「鞆絵太鼓会」に入会し、2006年春には「七星」のコンサートでプロデビューしたメンバーもいます。彼らは現在も「鞆絵太鼓会」の熱心な指導者として貢献しています。
また、TVや雑誌でも取り上げられている和太鼓ユニット「はやと」の三兄弟と政所和幸(TAO〜和太鼓エンターテイメント)も「鞆絵太鼓」からプロとして巣立っていきました。

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揃えられた靴
普段の礼儀作法が肝心 |
稽古は毎週日曜、子供の部は17時〜19時まで、大人の部は19時〜21時までのそれぞれ2時間ずつです。古来の伝承曲を受け継いだ楽曲を中心に“表現する身体作り”をテーマにしたオリジナルの組太鼓を練習しています。近隣への配慮から、練習中は太鼓を布で覆って防音に努めています。
和太鼓というのは極めて単純な楽器ですが、打ち出される響きは人の根源を揺り動かし、えもいわれぬ感動を呼び起こします。そんな人の心に響く演奏のために、子供も大人も練習中は真剣そのものです。青少年の育成も会の大きな目的なので、靴の脱ぎ方や、目上への礼儀など“しつけ”も厳しく行っています。
「鞆絵太鼓会」の会費は月額ジュース代500円のみで月謝がありません。指導者は手弁当で完全ボランティアですが、だからこそ子供たちを変にお客様扱いすることなく、本音で厳しいことも言えるのです。

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数々のコンクールで受賞 |
小中学校で太鼓クラブ、太鼓教室の指導の他、「諏方神社」の祭りでのお囃子、組み太鼓や盆太鼓をはじめ、近隣のお祭りや地域の行事などのイベントで活動しており、「明治神宮」の秋の大祭に奉納したこともあります。
かつてはジュニアコンクールなどに挑戦して、敢闘賞を受賞したこともありましたが、出場してみて感じたのは、太鼓は順位を競うものではなく心を音に託すものという事でした。よって今後は受賞を目的に活動する予定はありません。

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老人ホームでは大変な歓待ぶり |
「鞆絵太鼓会」の恒例行事として新年の3日と4日には、獅子舞巡行を行います。
子ども達のお囃子をお供に、その年成人を迎える町内の家や、荒川区や台東区の老人ホームなどを巡行します。
老人ホームでは獅子に手を合わせる方もいて、本当に感謝されます。子ども達にはその様子を見て心に残してもらいたいと思いますね。
獅子舞というのは演者にとっては本当にハードなんです。中に入ってしまうと視界は狭いし、かしらは重いし、呼吸は苦しいという具合です。獅子をかぶると人間の表情はすっぽりと隠れてしまいますから、獅子になりきって体は獣で舞い、心は神の仕えとして舞うようにと指導しています。「歩く」「飛びはねる」「噛む」「振り向く」「呼吸をする」「あくびをする」「うたた寝をする」など幾つかの型がありそれを自在に組み合わせて、果敢な様子やユーモラスな表情をつくり出します。
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若手に対しての指導に熱が入る |
型はあるけれども筋書きのない獅子舞は、アドリブが多く演者のセンスが問われるので、みな汗だくになって稽古に精を出しています。
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●厳しくても楽しい!鞆絵太鼓会・子供の部の練習風景
師走頭の日曜の夕方5時、「日暮里中央町会会館」の玄関に一歩入ると、一糸乱れることなく並んだ子供用のシューズがずらり。二階の練習場では、17名の小中学生が、指導者であるプロの鈴木正彦さんが叩く“ドカン”のリズムに合わせ、「ソーレ!」と掛け声をかけながら真剣な眼差しで太鼓を演奏しています。叩く時に足を踏ん張る必要があるため、底冷えする中でもみな裸足に軽装。上着のまま叩こうとしていた小学生男子に、鈴木愛子会長から「やる気あるの?」と鋭い一声…。緊張した空気の中、「鞆絵太鼓会」のオリジナル4曲を、鉦、しめ太鼓、宮太鼓がそれぞれ息を合わせて練習していきます。
小3から参加しているという鈴木萌子さん(小5)は、「幼稚園の時に観に来て楽しそうだなぁと思って。実際に参加してみたら、ホント楽しい!お祭に出て拍手されたりするし。寒い日でも太鼓を叩いていたら熱くなっちゃう」。弟の鈴木優正君(小3)も「叩いて音が出るのがおもしろい。厳しくても楽しいから平気」。先輩に誘われて入会した野村龍一君(小3)は「最初は恥ずかしかったけど、叩くとスカッとして気持ちいいから、今は大好き!」と、みな和太鼓の魅力に夢中のよう。次代の担い手は確実に育っているようです。
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