お店はいつから始められたのですか?
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まるで海外旅行をしている雰囲気 |
1950年頃、私の両親が大阪から三河島に移り住んだのがきっかけです。店といっても玄関先のみかん箱の上に、母が仕入れてきた唐辛子や乾物などを並べて売ったのが最初です。
はじめは、なかなか自国の料理を食べられなかった三河島に住む在日コリアンが主なお客さんでした。彼らのニーズに合わせて商品を取り寄せたり、当時近くにあった精肉解体場に通う業者の勧めで肉を扱うようになったりと、徐々に扱う品数が増えていきました。
ここは「三河島朝鮮マーケット」という正式名称です。皆さんマーケットと聞くともっと大きな市場を想像されるようですが、今残っているのは最盛期の半分で5軒のみです。以前は尾竹橋通りから裏通りに抜けるまでの路地に、乾物屋、お好み焼き屋、焼肉屋などがひしめいていました。
どのような方がいらっしゃいますか?
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初代店主、お母さんからの秘伝の味。漬けこむ白菜の量も半端じゃない |
在日コリアンが6割、日本人が4割ですね。最近のマスメディアの影響で、日本人が増えてきています。このあたりがテレビで紹介されると、区外からくるお客様が多くなりますし、通信販売では北海道など遠方からも注文が来ます。
三河島コリアンタウンの特徴は、在日コリアンがつくったコミュニティといえます。私は風土が食文化を作ると考えていますが、そのような意味では、キムチをつけるヤンニョムひとつにも長く日本に暮らす我々が生み出した味覚があると思います。
三河島で召し上がることが出来る韓国・朝鮮料理の多くは、在日コリアンが築き上げた日本育ちの味なので、本場の味というよりはおふくろの味が基本です。このように先代から伝承された味を、時代のニーズに合わせてアレンジしつつ、日本に根付いた料理として広めていきたいと思っています。
珍しい食材があれば教えてください。
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湯むきした後に残った毛をバーナーで焼き更に剃刀でそぎ落とす |
扱っている食材は約200種類で、主に食肉とその加工品、キムチ、調味料などです。
朝鮮半島の肉料理というと牛の焼肉というイメージをお持ちの方が多いでしょう。郷里の済州島では、肉といえば豚がメインで、皮付きで調理されるのが特徴です。当店に併設された調理場では、皮付きのまま九州、沖縄などから仕入れ、済州島と同じ方法で手間をかけ下処理をしています。通常の精肉工場は、工程がすべてライン化されているので皮付き肉を手に入れることは困難なため、扱っている所は都内でも僅かだと思います。
「皮付き肉」にはゼラチン質が豊富で、コラーゲンの摂取には好適でしょう。
朝鮮半島(陸地)と済州島は、料理方法や名称が異なる場合があります。「豚の腸詰」を陸地では『スンデ』と呼び温めて食べますが、済州島では『スエ』と呼ばれ冷まして食べます。繋ぎも『スンデ』には餅米を使うのに対し『スエ』は蕎麦粉と小麦粉を使います。『スエ』の味はサラミとレバーの中間のようで、これをスライスして酢味噌で食べます。陸地と比べ済州島の料理は、素材を活かしたサッパリした味付けのものが多いですね。
伝統の味といえばキムチでしょうか?
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豊富なキムチ類。手間ひまを惜しまないことが誇り |
キムチは白菜など4種類の葉ものがあり、そのほかに日本の塩辛をアレンジして作ったイカキムチ、渡り蟹を漬けたケジャンなどすべて自家製です。
キムチを漬けるベースのヤンニョムは代々のレシピがあり、つけ込む素材に合わせて配合を変えてつくります。白菜には白菜用のヤンニョム、カクテキにはカクテキ用のヤンニョムとすべて異なります。
ヤンニョム作りに欠かさない唐辛子は、細かく砕いた粉状の物から荒い粒状の物まで、3種類をブレンドして使います。それぞれの野菜に浸透する時間の違いが、キムチに深い味を刻みます。もう一つの味の決め手は魚醤(ナンプラー)で、ここでは市販ではなく生のいわしや海老などから抽出したものを使います。
最近は日本でも糠床を行わなくなってきたように、手間や管理が大変なので自宅でキムチを漬ける方は減ってきましたね。
キムチを食べた後は、さっぱりした味わいの中に旨みが凝縮されているものが良いといわれています。キムチは発酵食品なので時間とともに酸味が出てきます。酸っぱくなってしまったキムチは肉と一緒に炒めると、酸味が程よく中和され肉の旨味が引き立ちますし、鍋にしても美味しくいただけますよ。
荒川区と済州島の交流が始まりましたがご感想は?
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焼酎の味はまろやかで美味。米粒の残ったどんどん酒やマッコリなど酒類も豊富 |
お互いを知る民間交流は、友好に繋がる上でとても良いことだと思います。
また三河島の在日コリアンの存在を、区内外の方に知っていただくきっかけにもなると思います。
私自身は小さな力ですが、その一翼を担いたいと思っています。
お近くにお越しの際は、ぜひ一度店に立ち寄ってください。調理方法や美味しい食べ方なども気軽にご質問いただければ、丁寧にお答えしますよ。
※取材記事は平成18年2月現在のものです。